toripiyotan

何回もおなじこと喋る

強い風【ショートストーリー】

ここではいつも強い風が吹いている。

あまりの強風で目を開けていられない。乾いた地面から巻き上げられた砂が耳や鼻の穴から吹き込んでくるのを防ぐため、わたしはぎゅっと顔を包む布を押さえる。体が煽られるので小さな歩幅で少しずつ進む。わたしの右から左へと吹き抜けていく風は、止むことを知らない暴力だ。風に質量などないはずなのにバシバシと痛みを感じる。

空は晴れている。けれど風のせいで白い。太陽は球ではなく境目のあいまいなぼんやりとした明るさの中心地でしかない。開けると乾いて涙が止まらなくなる目で懸命に前方を見つめても、数百メートル先さえ煙っている。風が強い。歩いていられない。

あなたはわたしの向かいからわたしと同じようにやや背を屈めて歩いてくる。風に攫われないように歩幅を小さくして足元を見ているからすぐそばに来るまでわたしに気づかない。わたしが腕に手を触れると驚いて顔を上げる。なにか言うけれど風がうるさくて聞こえない。わたしもなにか優しい言葉、会えて嬉しいと言おうとするのに、強風のなかでも届くよう声を張り上げるせいで、声も顔もまるで怒鳴っているようになる。あなたは来た方に振り返り、わたしと並んで歩き始める。わたしを迎えに来たのか、道の途中でわたしと会ったところで外出を断念して引き返しはじめたのかは分からない。それについて尋ねることも答えることもこの風の中では困難だから、わたしたちはただ腰を屈めて並んで歩く。時に強風の中に隠れていた突風がわたしたちを地の果てに押し飛ばそうと現れる。わたしたちはがっしりと腕を取り合い、互いにしがみついて進む。葉裏のカタツムリのようなのろのろとした速度で、足裏を地面に粘着させるように。細めた目では先がどのくらいなのか見通せない。わたしはわたしの右足と左足が、必ずわたしを運んでくれると信じて動かすしかない。

しっかりと顎紐をしめた帽子からわたしの髪が溢れてぐるぐると生き物のように暴れる。しがみついたあなたの顔をわたしの髪が平手打ちしている。わたしは髪を片手でめちゃくちゃに服の襟に入れ込むけれど、風が再び引っ張り出すのも時間の問題だとわかっている。わたしたちは互いを互いの砂袋のように握りしめている。そのほうがきっと地面に張り付いていられると思っている。だけどそうして腕を取り合っていれば、片方がもう一方の風船になってしまう可能性にも気づいている。その時は手を離すべきだろう、おそらくできないけれど。

ここでは強い風が吹いている。

目も開けられないわたしたちは互いにしがみついてゆっくりと進んでいく。