⚫︎創作/ロマンス
湿った地面の上をずるずると引き摺られている感覚で私は目を覚ました。この二日ほどの記憶は薄い。部隊の仲間と散り散りになり私はひとりジャングルを彷徨っていた。水も食料も尽きておまけに身体中が痛み発熱しているのを感じていたのは覚えている。今は誰…
※注意 暴力および性的な表現があります。 彼がバーに入ってくると店の空気が一変する。あたしはその瞬間を見るのが好きだ。そしてその男があたしを見つけて片方の口の端で微笑みながら近づいてくるのも。 「やあ、ベイビー」 彼はあたしにキスをしてバーテン…
「ごめん、ちょっと」 そう囁かれて顔を見ると確かに青くなっている。 「一旦降りよか」 数分後に開いた電車のドアから途中下車すると、コウちゃんはそのまま目の前のベンチにどさりと腰を下ろした。わたしもその隣にそっと腰掛けて、コウちゃんのカバンと自…
2015〜あたりに書いたお話たちのリンクです。 Tumblrからnoteへ、そしてwordpressへと居住地を移動してきたのでいつ頃のものかあんまりはっきりしない。 何かが大きく変わったわけでも熱心に練習したわけでもないのにやはり最近のものより過去のもののほうが…
(注意 精神疾患の症状についての表現があります) 階下でカランカランと空缶の転がる音がした。 私は閉じていたまぶたを上げて床に横になったまま何の音だろうかと考えた。母は仕事に出かけているし、誰かが訪ねてくるなんて話も聞いていないのでリビングあ…
(注意 鬱病など精神疾患に関する表現があります) 小さなノックの音がした。開けっぱなしの扉をそっと押す気配のあと真っ暗な部屋にペタペタという裸足の足音が広がった。 リサはベッドに近づくと丸いホイップクリームのような布団の塊にむけて小声で話しか…
(前作:ペン[ショートストーリー] - toripiyotan) 週初めのばたついた雰囲気が落ち着き始めた午後の休憩中に、真島はフロア中が振り返るような驚きの声を上げた。とはいえ、営業部はほとんどが出払っている。目の前で顔をしかめているのも事務のパートさ…
(注意 精神疾患の症状についての表現があります) インターホンが来客を知らせると同時にドアに飛びついて開くと彼が 「確認もせずに開けると危ないよ」と言った。私は小言を無視する。上機嫌で「いらっしゃい」と言ってドアを押さえたまま彼が通り抜けられ…
デスクの引き出しからいつものボールペンが無くなっていることに古宮が気づいたのは午前の業務がひと段落した頃だった。 「あれ?」 雑然としたデスクの上をガサガサと漁り、どこかへ転がり落ちたのだろうかと机の下に頭を潜り込ませて確認する。しかし目に…