toripiyotan

何回もおなじこと喋る

⚫︎創作/ファンタジー

強い風【ショートストーリー】

ここではいつも強い風が吹いている。 あまりの強風で目を開けていられない。乾いた地面から巻き上げられた砂が耳や鼻の穴から吹き込んでくるのを防ぐため、わたしはぎゅっと顔を包む布を押さえる。体が煽られるので小さな歩幅で少しずつ進む。わたしの右から…

渡る【ショートストーリー】

テンはくすんだ水草色の男の着物を身につけた。それは軽く、歩きやすく、自由だった。鮮やかな首飾りも淡い桃色に透ける腰巻も、およそ娘と表現するものを全て脱ぎ捨てた。小さな包みを文机の上から取り上げるとそっと戸を開け足音を忍ばせ庭を抜けた。約束…

実験[ショートストーリー]

※精神疾患についての描写があります。 君は不幸だと思う。若い心臓と健やかな手足と聡明な瞳を持っているのに君の背には泥水を吸った厚い毛布のような憂鬱が重く乗っている。よりよい地面を求めて根を出す多肉植物のように憂鬱は君の背にがっしりしがみつい…

巨人と旅人[ショートストーリー]

※注意 魚を獲って食べる描写があります 旅人は背負ってきた荷物を下ろし、集めた小枝を小さな山にして火を熾した。夏にはまだ遠く、日が落ちると冷気が体温を奪っていく。旅人は食事の支度をする前にもう少し小枝を集めるため周囲を歩いた。そこは森のなかの…

鬼となる[ショートストーリー]

※暗いお話です。ストーリーを決めずに即興で書きました。 砂の城を崩すように指が顔を壊した。私が触れたそばから彼の両頬はぼろぼろぼろ、とものの形をとどめず地面に落ちて堆積していった。彼は「あ。」と驚きの声をあげたかあげないかですっかり姿を消し…

夏至前夜のファンタジー[ショートストーリー]

むしむしとした夜の森の広場で、エルフとドワーフとコボルドが焚き火を囲んで座っていました。明日は夏至の日、今夜は森も原っぱもどこもかしこも大騒ぎです。妖精たちの大きなダンスで歌う声や踊る音が風に乗ってかすかに聞こえてくるあたりで、3人は静かに…

帽子窃盗団[ショートストーリー]

夏の爽やかな朝を北へ向かう電車がすいすいと駆け抜けていました。広くふさふさ揺れる麦畑も、ゆっくりと草を食む羊たちも、すばらしい青空を背景にして窓の外をどんどん流れていきます。その電車には大人たちに挟まれてオットー少年がわくわくとした顔で乗…

裁き[ショートストーリー]

大議会の扉の前まで来るとアリテイアの手首から鎖が外された。自由になった両手を使い重い巨大な扉を押し開けると、がらんどうの広間を見下ろすように五人の最高評議員が腰掛け、咎人の入場を待ち侘びていた。アリテイアは堂々と頭を上げ、大股で彼らの前へ…

過去に書いた創作のリンク[ショートストーリーズ]

2015〜あたりに書いたお話たちのリンクその2です。 こちらはファンタジーとまではいかなくてもちょっと日常逸脱系。 興味がおありでしたら下記のリンクから! 下に行くほど比較的新しいです。 へそtoripiyonotes.wordpress.com へそがしゃべります。 プラタ…

Vihaan[ショートストーリー]

※注意※ 人身売買、児童虐待、性的虐待、殺人に関わる表現があります。 地平線の端がオレンジ色に染まり、ようやく夜の藍が白く薄らんだ頃、掃き清めたばかりの戸口に彼は現れた。 「あなたが交換商か」 私はちょうど朝の熱い茶を淹れようとしているところで…

追う者たち[ショートストーリー]

(注意:差別的および暴力的な言葉の表現があります) 浅いまどろみの中にいたシグをイゴーが揺り起した。 「見ろ」 シグはイゴーの視線の先に目を向けた。そこには見たことのない巨大な生き物の腹があった。 シグはコンソールの上に身を乗り出し、フロント…

とかげとりす[ショートストーリー]

とても気持ちのよい朝でした。顔を出したばかりのお日様が朝露をきらきらと輝かせて、どこもかしこも白い光にふんわりと包まれています。林の中はまだ静かで、木々の広げた両腕いっぱいの葉のすきまから所々スポットライトのように朝陽が降り注いでいます。 …

宝石泥棒[ショートストーリー]

全速力で走る足がずぶずぶと地面に吸い込まれる。 悪態をつきながら柔らかい泥からブーツを片足ずつ引き抜いて前に進もうとするが、体がゆっくりと飲み込まれていくのをほとんど防ぐことができない。 急にスピードを落としたことよりも大声で世界を呪う言葉…

バースデーケーキ[ショートストーリー]

(注意:一部、死についての言及があります) 有毒な雨が大きな丸い窓の向こうを白く煙らせている。 ここではほとんどいつもそうだ。 強いか弱いかの違いだけで、空から地上への水の降下が我々を屋内に閉じ込める。 「誕生日おめでとう、R」 直径20センチほど…

不死の馬[ショートストーリー]

(注意 暴力と死についての表現があります) 不死の馬がいた。 銀色に輝く馬だった。 多くの戦士や貴族が所有し、飾り立て、見せびらかした。 人間たちは何度も死に、馬は生き延び、次の所有者の手に渡った。 不自由なく食べ、よく運動して鍛え、清潔にされ…