toripiyotan

何回もおなじこと喋る

ブログ引っ越しのお知らせ

はてなブログからwordpressへブログをお引っ越しすることにしました。 これまでの分はしばらく残しておきますが、今後の更新は新しい方でのみとなります。 もしよかったら、今後はそちらを覗いてみてもらえると嬉しいです! NEW! ↓↓↓ https://toripiyonotes.…

アブストラクト[ショートストーリー]

彼はいつも私に理解できないものを描いていた。キャンバスは黒く、あるいは赤く、あるいは灰色で、獣が噛み合っているか、あるいは人がまぐわい合っているか、締めあっているような、どうとも表現のしようがないものばかりだった。彼の絵はごくたまに高額で…

強い風【ショートストーリー】

ここではいつも強い風が吹いている。 あまりの強風で目を開けていられない。乾いた地面から巻き上げられた砂が耳や鼻の穴から吹き込んでくるのを防ぐため、わたしはぎゅっと顔を包む布を押さえる。体が煽られるので小さな歩幅で少しずつ進む。わたしの右から…

渡る【ショートストーリー】

テンはくすんだ水草色の男の着物を身につけた。それは軽く、歩きやすく、自由だった。鮮やかな首飾りも淡い桃色に透ける腰巻も、およそ娘と表現するものを全て脱ぎ捨てた。小さな包みを文机の上から取り上げるとそっと戸を開け足音を忍ばせ庭を抜けた。約束…

実験[ショートストーリー]

※精神疾患についての描写があります。 君は不幸だと思う。若い心臓と健やかな手足と聡明な瞳を持っているのに君の背には泥水を吸った厚い毛布のような憂鬱が重く乗っている。よりよい地面を求めて根を出す多肉植物のように憂鬱は君の背にがっしりしがみつい…

熱病[ショートストーリー]

湿った地面の上をずるずると引き摺られている感覚で私は目を覚ました。この二日ほどの記憶は薄い。部隊の仲間と散り散りになり私はひとりジャングルを彷徨っていた。水も食料も尽きておまけに身体中が痛み発熱しているのを感じていたのは覚えている。今は誰…

ショートストーリー集通販中

これまで書いてきたショートストーリーを紙の本にしました。 こちらから通販できます。 pictspace.net 価格は送料込み1,000円です。 ブログ公開時から一部内容を変更しているものもあります。 あまり多くは印刷していないのですが、紙で読みたい方ぜひよろし…

Based on Lies[ショートストーリー]

※希死念慮の描写があります 二歩。 (間も無く列車が参ります) 二歩でいい。 (白線の内側まで下がってお待ちください) 二歩踏み出せば全て終わる。 (間も無く列車が参ります) 何時間経った?いつまでぐずぐずしているんだ。たった二歩を踏み出せば僕は…

巨人と旅人[ショートストーリー]

※注意 魚を獲って食べる描写があります 旅人は背負ってきた荷物を下ろし、集めた小枝を小さな山にして火を熾した。夏にはまだ遠く、日が落ちると冷気が体温を奪っていく。旅人は食事の支度をする前にもう少し小枝を集めるため周囲を歩いた。そこは森のなかの…

権威主義と『ナワリヌイ』と『ラスト・ツァーリ ロマノフ家の終焉』

映画を見てきた。 ロシアの反体制派政治活動家アレクセイ・ナワリヌイの毒殺疑惑とプーチン大統領の権威主義政治の関連を示唆するドキュメンタリー映画だった。 映画としてとても面白かった。 わたしはロシアの政治に疎くてついていけるのか不安だったけれど…

アオとその両親が乗る自動車が事故を起こしたのは祖母宅から帰る山道でのことだった。 大きく広がる角を戴いた牡鹿を避けようと思わずハンドルを切った車は狭いセメント敷の道路を逸れ舗装のない木立のほうへと突っ込んでいった。幸い巨木がバンパーをひしゃ…

鬼となる[ショートストーリー]

※暗いお話です。ストーリーを決めずに即興で書きました。 砂の城を崩すように指が顔を壊した。私が触れたそばから彼の両頬はぼろぼろぼろ、とものの形をとどめず地面に落ちて堆積していった。彼は「あ。」と驚きの声をあげたかあげないかですっかり姿を消し…

my baby[ショートストーリー]

※注意 暴力および性的な表現があります。 彼がバーに入ってくると店の空気が一変する。あたしはその瞬間を見るのが好きだ。そしてその男があたしを見つけて片方の口の端で微笑みながら近づいてくるのも。 「やあ、ベイビー」 彼はあたしにキスをしてバーテン…

見知らぬ駅[ショートストーリー]

「ごめん、ちょっと」 そう囁かれて顔を見ると確かに青くなっている。 「一旦降りよか」 数分後に開いた電車のドアから途中下車すると、コウちゃんはそのまま目の前のベンチにどさりと腰を下ろした。わたしもその隣にそっと腰掛けて、コウちゃんのカバンと自…

本を作ろう!前編

いつもブログにあげているショートストーリーを紙で読みたいと言ってもらったので、薄い本の形にまとめる準備をしている。これ終わったらブログネタにできるぞ〜と思っていたのだけれど、おそらく完了したらもう無理……となってふりかえってまとめるとか絶対…

どうやってお話を思いついているの?

わたしが再び(何度目かの再び)お話を書くようになって、はや2ヶ月ほどとなった。たまに、どうやってアイデアを思いついているのか、ストーリーの形に膨らませているのか、ラストは決めてから書き始めるのかといったことを聞かれることがある。 実はこうい…

星と井戸[ショートストーリー]

※注意 暴力、虐待に関する表現があります。 地下はそりゃあ酷い臭いだったよ。汚物も食べ残しも腐ったものも腐れないものも街中からいっしょくたに集まってくるんだから。それをコンベヤーの上にぶちまけてひたすら分別していくんだ。とんでもないものが混ざ…

夏至前夜のファンタジー[ショートストーリー]

むしむしとした夜の森の広場で、エルフとドワーフとコボルドが焚き火を囲んで座っていました。明日は夏至の日、今夜は森も原っぱもどこもかしこも大騒ぎです。妖精たちの大きなダンスで歌う声や踊る音が風に乗ってかすかに聞こえてくるあたりで、3人は静かに…

帽子窃盗団[ショートストーリー]

夏の爽やかな朝を北へ向かう電車がすいすいと駆け抜けていました。広くふさふさ揺れる麦畑も、ゆっくりと草を食む羊たちも、すばらしい青空を背景にして窓の外をどんどん流れていきます。その電車には大人たちに挟まれてオットー少年がわくわくとした顔で乗…

裁き[ショートストーリー]

大議会の扉の前まで来るとアリテイアの手首から鎖が外された。自由になった両手を使い重い巨大な扉を押し開けると、がらんどうの広間を見下ろすように五人の最高評議員が腰掛け、咎人の入場を待ち侘びていた。アリテイアは堂々と頭を上げ、大股で彼らの前へ…

過去に書いた創作のリンク[ショートストーリーズ]

2015〜あたりに書いたお話たちのリンクその2です。 こちらはファンタジーとまではいかなくてもちょっと日常逸脱系。 興味がおありでしたら下記のリンクから! 下に行くほど比較的新しいです。 へそtoripiyonotes.wordpress.com へそがしゃべります。 プラタ…

過去に書いた創作のリンク[ショートストーリーズ]

2015〜あたりに書いたお話たちのリンクです。 Tumblrからnoteへ、そしてwordpressへと居住地を移動してきたのでいつ頃のものかあんまりはっきりしない。 何かが大きく変わったわけでも熱心に練習したわけでもないのにやはり最近のものより過去のもののほうが…

Vihaan[ショートストーリー]

※注意※ 人身売買、児童虐待、性的虐待、殺人に関わる表現があります。 地平線の端がオレンジ色に染まり、ようやく夜の藍が白く薄らんだ頃、掃き清めたばかりの戸口に彼は現れた。 「あなたが交換商か」 私はちょうど朝の熱い茶を淹れようとしているところで…

ずっとじんわりと悲しい

注意 精神疾患の症状について話します。 先週は酷かった。 全ての症状が戻ってきて自傷行為も2度ほどしたが、それもこれもどうやら回復のために変えてもらったSSRIが致命的に合っていなかったようで、前の薬に戻してもらったら落ち着いてきた。 ついでに壊し…

アーモンドチョコ[ショートストーリー]

(注意 精神疾患の症状についての表現があります) 階下でカランカランと空缶の転がる音がした。 私は閉じていたまぶたを上げて床に横になったまま何の音だろうかと考えた。母は仕事に出かけているし、誰かが訪ねてくるなんて話も聞いていないのでリビングあ…

フルーツ[ショートストーリー]

(注意 鬱病など精神疾患に関する表現があります) 小さなノックの音がした。開けっぱなしの扉をそっと押す気配のあと真っ暗な部屋にペタペタという裸足の足音が広がった。 リサはベッドに近づくと丸いホイップクリームのような布団の塊にむけて小声で話しか…

窒息

(注意 精神疾患を患っているので憂鬱な話ばかりしています。気をつけて下さい) 良い気分とは言えない。 そこからどう抜け出せばいいのかわからない。 それどころか、抜け出したとき、自分がどうなるのかもわからない。 あまりに長い期間、わたしは自分の病…

追う者たち[ショートストーリー]

(注意:差別的および暴力的な言葉の表現があります) 浅いまどろみの中にいたシグをイゴーが揺り起した。 「見ろ」 シグはイゴーの視線の先に目を向けた。そこには見たことのない巨大な生き物の腹があった。 シグはコンソールの上に身を乗り出し、フロント…

とかげとりす[ショートストーリー]

とても気持ちのよい朝でした。顔を出したばかりのお日様が朝露をきらきらと輝かせて、どこもかしこも白い光にふんわりと包まれています。林の中はまだ静かで、木々の広げた両腕いっぱいの葉のすきまから所々スポットライトのように朝陽が降り注いでいます。 …

宝石泥棒[ショートストーリー]

全速力で走る足がずぶずぶと地面に吸い込まれる。 悪態をつきながら柔らかい泥からブーツを片足ずつ引き抜いて前に進もうとするが、体がゆっくりと飲み込まれていくのをほとんど防ぐことができない。 急にスピードを落としたことよりも大声で世界を呪う言葉…