toripiyotan

何回もおなじこと喋る

アーシュラ・K・ル=グイン作品がすき

ルグインの本を初めて読んだのは大人になってからで、あの色んな意味で有名なアニメーション映画「ゲド戦記」の原作でさえ名前しか知らない状態だった。今ではすっかりなにかと言うとルグインなわたしだけれど、映画「ジェーン・オースティンの読書会」で重要なアイテムのように出てくる「闇の左手」に興味を持つまでは読もうとも思っていなかった。もしかしたらあの映画には一生分の恩があるのかもしれない。

 

今日までに読み終えたルグイン作品は以下の通り。

 

闇の左手

ラウィーニア

ゲド戦記  1〜6

西の果ての年代記ギフトヴォイスパワー

所有せざる人々

風の十二方位

暇なんかないわ大切なことを考えるのに忙しくて

空飛び猫・帰ってきた空飛び猫

 

空飛び猫のような絵本はともかくとして、なぜこんなにルグインに惹かれて仕方ないのだろう。これ以上は絶版になっているようで古本でもあまり見つからず歯痒い。

ネタバレなく各作品の良さを語ることは難しいので全体に共通する良さを考えてみると、ルグイン作品では必ず生活・社会・権力が描かれているように思う。

主人公や登場人物たちは異世界の人々であり全く違う習慣を持つにもかかわらず生活を営む様子が目に浮かぶし、その個人たちを包む社会・宗教や身体構造の違いからの生理現象とそれにまつわる文化的慣習も(ともにそこで暮らし少しずつ教えてもらうようなやり方で)描写されている。それから権力。これがなければルグインと言えないのでは。その権力は必ずしもわかりやすく主人公の戦う悪として描かれるなんてことはない。むしろ主人公自身がそちら側かも知れず、同時に虐げられるものであったり、そこから完全に外れた立場にあったりもする。

 

一番気に入っている本をあげるのは難しいけれどどうしても最初に浮かんで誰かに読んで欲しくなるのは西の果ての年代記シリーズだ。静かで、寓話的で、特に他者との関係と権力について考えこまされる。ファンタジーの世界が舞台になっていて、その世界では(三冊とも別の地域での話のため若干それぞれの土地の習慣が違っているものの)与えることと与えられることが交互に行われることになっている。「ギフト」では魔法のような力を持つ領主と小作人たちとの関係が、「ヴォイス」になると占領され法を押し付けられた奴隷市民たちと占領者である国の兵士との対立が、「パワー」では主人公である奴隷とその持ち主家族との関係が権力構造としてある。あぁでもそこだけではなくて……しかしこれ以上はネタバレになってしまうから口を閉じておこう。読んだ方、連絡ください。話し合いましょう。

 

この権力とそれへの対抗は「所有せざる人々」に特に顕著で、主人公が豊かな星ウラスに招かれ食も衣服も研究資金も贅沢にある状態を自分が出発した故郷である姉妹星の<持たなさ>と比較しているのだけれど、実のところ豊かに見える星の中にも当然<持たなさ>で苦しんでいる人々の層は存在する。しかし彼らの革命は、主人公の星アナレスのような分かち合い個人は何も所有しないという規範を持つわけではない。それを主人公は「浅ましい連中だよ、きみたちは」と非難している。「きみたちはドアを開けておくことができない。そんな事では決して自由になれないよ」と。

 

「風の十二方位」の中には非常に有名な「オメラスから歩み去る人々」が収録されている。まるで反功利主義的な道徳哲学寓話なのだが、我々はたとえ全ての人々が完璧に幸せでいられるためであっても、たった一人の子供を穴蔵で反吐の出そうな環境に鎖で繋いで不幸にしておいていいのか、そこで忘れたふりをして愛する人々と幸せに暮らし続けるのか、歩み去るのか。「風の十二方位」は単体で読むとやや不可思議な小品の集まりといった感じだけれど、それ以外の長編とオーバーラップさせるとルグインの語らなかった世界観に対して視点が深まる。読んだ当初わたしはTwitterでバッドアスな方向に印象が広がった、と書いている。

 

ルグインの作品の中でごくごく小さいながらどうしても毎回気になってしまう箇所は男女二元論的な発言を登場人物にさせているところだ。これはルグイン自身にそのような価値観があると捉えていいのか(もしあったとしても時代的なことを考えると仕方ない程度ではあるけれど)登場人物の世界がそうであるということの証左でしかないのかはわからない。女とはえてして〇〇である、男たちというのは〇〇だ、などという記述がごく稀にある。しかしそういえば「闇の左手」にはゲンリー・アイのセリフ以外にはそれらはないので(舞台となっている惑星《冬》の人々は両性具有者だ)やはりその世界での考え方を記しているに過ぎないのだろうか。そこだけが読んでいて気になる。

 

やはりどこにも辿りつかない話になってしまった。また話したいことが出てきたら書こう。

 

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